近年、日本各地で豪雨や地震などの自然災害が相次いでいます。福知山市でも、2013年から2018年までの5年間に、由良川流域の氾濫など4回の水害を経験してきました。
こうした災害の教訓を未来へ生かすため、本学は2021年4月に「地域防災研究センター」を開設。地域経営学と情報学、それぞれの専門性を生かしながら分析・研究するとともに、自治体との共同研究や住民向け研修など、地域に根ざした防災・減災に取り組んできました。
開設から5年。当センターが地域とどのように関わりながら、防災の取り組みを進めてきたのか、水口学センター長と学生団体「七福ふっこう隊」代表の梶原大資さんへのインタビューから探ります。
データと対話で高める地域の防災力
地域防災研究センターでは、どのような取り組みをされていますか
水口:これまで、災害時の人流分析や、市内の中小河川への雨量計・水位計の設置、住民の防災意識調査、AIを活用した消防活動支援など、データを生かした防災研究に取り組んできました。
現在、特に力を入れているのが、地域の「防災マップ」のデジタル化です。福知山市では全325自治会が独自の避難スイッチを盛り込んだ紙のマップを作成していますが、更新に手間がかかる課題がありました。そこで、情報学部・衣川昌宏准教授のゼミ生と市の危機管理室が連携し、手軽に更新できるデジタルマップへの移行を進めています。
このほか、「地域防災連続セミナー」や「防災士養成講座」による人材育成、被災地での現地調査、災害の記憶を後世に伝える看板の設置や防災リーフレットの作成など、幅広い活動に取り組んでいます。


地域にある大学だからこそできる防災とは、どのようなものだと思いますか?
水口:地域で起きた災害の経験や知恵を、大学の専門知識やデータで調査・分析し、次の防災につなげていくことが、地域の大学が担う役割だと考えています。
同時に、地域の方々や行政などと、大学との「双方向の関係づくり」も欠かせません。例えば、防災セミナーでは講演後に意見交換の時間を設けています。少人数でじっくり話すことで、「うちの地域ではこういうことに困っている」といった声を聞くことができます。そうした地域の声や経験を研究や新たな取り組みに生かしながら、ともに地域の防災力を高めていく。そのための拠点になることも、大学の役割だと考えています。
能登で見えた、大学の役割
地域防災研究センターの役割を改めて考える大きなきっかけとなったのが、2024年1月に発生した能登半島地震でした。
石川県七尾市をはじめとする被災地へ、水口センター長や、災害復興・地域防災を専門とする地域経営学部の大門大朗准教授、そして学生ボランティアを取りまとめる学生団体「七福ふっこう隊」を中心に、教職員・学生が何度も足を運んできました。支援物資の搬送や被災家屋の片付け、仮設住宅でのサロン活動など、被災された方々に寄り添う活動は今も続いています。


震災から2年。現在も能登への支援を継続する中で、どのようなことを感じていますか?
水口:かつて消防士だった私は、発生直後の「72時間」が最重要だと思っていました。しかし、40回以上能登に通う中で、復興まで継続して寄り添う大切さを痛感しました。
避難所から仮設住宅、復興住宅へと移るたびに、それまで築いてきた人とのつながりが途切れ、孤独を深めてしまう方もいます。本音を言えない被災者の方々と何度も顔を合わせ、深い信頼関係の中で聞いた困りごとを行政に届ける。これは継続的な支援だからこそできることだと感じています。
梶原:僕はボランティア自体にも慣れていなかったので、最初の頃はとても緊張して、被災された方とどう接したらいいのか、探りながら活動していたと思います。
でも、能登の皆さんが優しく声をかけてくださり、少しずつ会話が増えていきました。あまり大げさなことではないんですが、そうした小さなやり取りの積み重ねが印象に残っています。
何度も通うことで、「また来月も来てくれる」と思ってもらえることにも意味があると感じています。僕自身、先輩たちがつくってきたつながりに途中から加わったので、今度は自分たちがそのつながりを次につないでいきたい。そうやって活動が続いていくこと自体に、意味があるのではないかと思っています。
学生が現場に入り、大学として支援に関わる意義とは何でしょうか?
水口:学生の持つ力は本当にすごいんです。避難所での足湯やマッサージも、温まる効果以上に『話を聞いてもらうこと』自体が心のケアになっていたように思います。真剣に耳を傾けていると、これまで我慢していた困りごとをポロッと明かしてくださる方や、涙を流しながら震災の体験を語ってくださる方もいました。
また、仮設住宅でのサロン活動でも、最初は遠慮していた高齢者の方が、若い学生が何度も訪ねるうちに「ちょっと顔を出してみようか」と心を開いてくださることもありました。僕みたいな「おっさん」ではこうはいきません(笑)。若い学生だからこそ、構えずに本音を話していただける。孤立を防ぎ、心をほぐす関わりができるのは、まさに学生や大学ならではの強みであり使命だと思います。


能登での経験や学びを、今後どう還元していきたいですか?
梶原:現在はサロン活動に加え、七尾市で再開し始めた地域イベントのお手伝いなどで交流を深めています。それと同時に、能登で学生が実際に見てきたことを、福知山の皆さんにちゃんと伝えたいという思いもあります。「能登半島地震写真展」や防災ボトルづくりなどを通して、少しでも関心を持ってもらい、身近な防災を考えるきっかけを作れたらと思っています。
能登での経験を福知山にどう生かしていくかは、まだ自分の中でも明確な答えがあるわけではなく、メンバーと模索している最中です。それでも、「今、能登はどうなっているんだろう」と少しでも関心を寄せてくださる方がいれば、僕たちが現地で見て、感じてきたことをこれからも伝え続けていきたいです。

水口:能登で直面した「高齢化」や「地域コミュニティの維持」という課題は、そのまま私たちが暮らす北近畿地域の未来の課題でもあります。こうした経験を北近畿地域の防災活動や防災教育にも生かしながら、行政や地域の方々と一緒に、これからの災害への備えを考えていきたいですね。
「防災と言わない防災」を日常へ
これまでの歩みを踏まえ、今後の地域防災と大学の役割について教えてください。
水口:この5年で防災に関わる地域の輪が少しずつ広がり、防災を「特別なこと」ではなく、「地域の日常の中で考えるもの」として捉えていただける機会も増えてきました。
だからこそ今、必要なのは「防災と言わない防災」です。防災訓練への参加を呼びかけるだけでなく、地域のお祭りや集会所の清掃といった日頃の活動の中に防災の視点を自然に組み込んでいく。そうした場で顔を合わせて互いを知り、困りごとを共有できる関係を作ることこそが、非常時の最大の支えになります。大学もまた、学生と共に地域の活動へ参加し、そうしたつながりをつくるきっかけを提供できると考えています。
地域防災研究センターでは、これまで地域に残る災害の経験や教訓を調査・分析し、防災・減災につなげる取り組みを進めてきました。行政や地域の皆さんと大学が継続的に意見を交わし、一緒に考える関係が築かれてきたことは大きな成果だと感じています。今後もそうした取り組みを続け、地域の皆さんとともに、より災害に強いまちづくりを進めていきたいと思います。

1987年から2023年まで福知山市消防本部に勤務。消防士から消防長まで務め、福知山市危機管理室長も歴任。2023年、本学地域防災研究センター長・特任教授に就任。福知山市危機管理アドバイザーなどを務め、2025年に瑞宝双光章(消防功労)を受章。

地域経営学部3年。学生ボランティア団体「七福ふっこう隊」代表。写真は、右手の親指を少し曲げて能登半島を表現する「能登ポーズ」。「暗くなりすぎず明るく元気に!」という被災地へのエールが込められたハンドサインです。
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